事務局仰木みどりです。
昨日6月29日、『疾患名「リンパ管奇形」に関する意識調査』の集計結果報告書をもとに作成した『疾患名「リンパ管奇形」見直しに関する要望書』を、厚生労働省、日本医学会、日本血管腫血管奇形学会へ提出しました。
要望内容は次の4つです。
当事者及び家族の心情に配慮し「奇形」という言葉を使わない別の疾患名への見直し
言語学者、医療翻訳者、言語専門家などによる言語的観点からの疾患名見直し
社会学者、福祉学者、法律家、ジャーナリストなど社会問題に詳しい専門家による社会的観点からの疾患名見直し
上記3つを具現化する患者・市民参画方式の開かれた疾患名検討体制の確立
さらに、マスメディア向けプレスリリースを作成し、厚生労働省内の記者クラブに配布しました(画像をクリックすると全文が出ます)。
プレスリリース作成にあたり、元毎日新聞の中井良則さん(元メキシコ支局長、ニューヨーク支局長、ワシントン支局長、外信部長、論説副委員長)に多大なるご協力を賜りました。
中井さんは今から31年前、治療のため来日したメキシコ人の赤ちゃん・カルロスちゃん一家を現地で取材した記者さんです。 中井さんの記事が反響をよび多くの寄付金が寄せられ、当会の前々身「カルロスちゃん基金」が設立されました。故荻田修平小児外科医が1994年に京都府立医科大学大学祭で講演した時の記録「カルロスちゃんと共に」の中にも、中井さんと荻田先生の当時のやりとりが記されています。
中井さんは先月の総会に参加してくださり、当会が実施したアンケートに対し「こういう形で人びとの声を集めるのはとても大事な仕事だと思います」と述べられ、自ら協力を申し出てくださいました。
荻田先生とカルロスちゃんが繋いでくれた30年前のご縁に助けられました。 中井さんのおかげでプレスリリースという発信方法があることを知りメディア目線のアドバイスをいただきました。
関係者の総意が反映されるよう惜しみなくスキルを提供してくださいました。 本当にありがとうございました。
わたくしは本日6月30日をもって20年間勤めてきた事務局長を退任いたします。 引き続き「監事」という立場で当会に関わり、本件を担当します。 この取り組みはカルロスちゃん基金の時から第三者としてかかわってきた30年間の集大成と捉えてきました。 最後ということもあり、これまでの経緯を少し説明したいと思います。 「リンパ管奇形」という疾患名を初めて目にしたのは2015年に開催された「第1回小児リンパ管疾患シンポジウム」でした。中井さんも仰っていましたが、「奇形」という用語はメディアではすでに使用を避ける言葉とされており反射的に違和感をおぼえました。また翻訳としても正確ではないと感じました。まるで灰色のことを「日本には灰色はないから黒と呼びなさい」と言われているような感覚でした。そう感じながらも当時は「医学用語は医療者が決めるもので非医療者が口を出すことではない」という固定観念と、海外向けの活動に集中していたこともあって自分が何かを言える立場にはないと判断しました。
2018年に国内活動にシフトし、当事者さんと接する機会が増え、当事者さん自身はどう感じているのか訊ねました。全員が「自分の疾患名を奇形とは呼びたくない」と答えました。当会ウェブサイトの「みんなの広場」でも意見を求めたところ、私と同じ言語専門の当事者さんが「英語の対訳としてもおかしい」と意見を述べてくださり、やはり見過ごしてはいけないと決意しました。
昨年度、今回の「奇形」の見直しを訴える取り組みのきっかけとなる出来事が3つありました。
1つ目は、 岐阜大学医学部附属病院小児科小関道夫先生主導のPPI(Patient and Public Involvement 医療分野における患者・市民参画)に参加したことです。
活動を通して「医療を医療者任せにせず、一般市民も対等な立場で共に問題解決に取り組む」という意識をもつことの重要性に気づかされ、固定観念を払拭しました。
2つ目は、昨年入局した当事者スタッフ2人と「履歴書に疾患名を書くべきか?」という話になったとき、仮に書いたとして疾患について何も知らない人事担当者が「リンパ管奇形」という疾患名をみて偏見を抱き就職に不利にならないだろうかと懸念を抱くスタッフの心情に触れました。
3つ目は、2022年診療ガイドライン草案に対する当会のパブリックコメントをもとめられた際、すでにタイトルから「リンパ管腫」が削除され「リンパ管奇形」のみとなっていたのを確認しました。 論理性だけを主張しても説得力に乏しいので、まずは客観的なデータを収集することから始めようと、会の関係者の賛同を得て一般社会を対象にしたアンケート調査の実施に踏み切りました。 以前、海外向けの活動に関わってくださったあるかたからこう言われました。 「仰木さん、善意は善意を呼ぶんですよ」 そのお言葉通り、今回の取り組みに賛同し様々な専門分野のかたが手を差し伸べてくださいました。
回答に協力を惜しまないと多くの団体や個人のかたからお返事をいただきました。
皆様の善意に支えられ要望書提出に至りました。
この場を借りて、深く感謝申し上げます。
疾患名の問題は単なる言葉の問題だけではありません。
疾患名を考えることで疾患への理解が深まり、当事者や家族がどういう問題を抱えているかにまで想いがいたります。共に問題を解決しようと動くことで社会全体が成熟していきます。疾患名は患者会を運営していく上で全ての問題の根本にあると考えます。
目標達成までの道のりは果てしなく長いですが、大きな一歩を踏み出すことができたと思います。
今後、社会に開かれた形で多種多様な分野が集い、疾患名の議論がなされる方向に向かうことを強く願っています。
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