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【小川教授に聞く!リンパ管腫に対する漢方治療(越婢加朮湯)について】広島大学病院漢方診療センター訪問

去る11月14日(月)、当会事務局スタッフ3名は広島大学病院総合内科・総合診療科漢方診療センターの小川恵子教授を訪問し、リンパ管腫に対する越婢加朮湯や、小川先生のグループが実施している臨床研究についてインタビュー形式でお話を伺いました。 小川先生より掲載許可を頂きましたので、全文ノーカットでお届けします。


 

事務局仰木 小川先生ご自身が漢方治療を始めたきっかけを教えてください。

小川先生

小児外科医になって6年目のとき、小児の疾患「鎖肛(直腸および肛門の形成異常で、肛門が生まれつき上手く作られなかった病気)」の患者さんを診ました。排便ができなかった状態が漢方で改善するという出来事を経験し、そこから漢方治療を勉強し始めました。


仰木

越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)をリンパ管腫患者さんに処方した経緯は?

小川先生 普段から色々な疾患を診ていますが、リンパ管奇形の患者さんを小児外科から紹介され、漢方医学的診断(脈、舌などを診て状態を判断)から処方しました。

仰木

臨床試験(医師主導の特定臨床研究)では越婢加朮湯に限定されていますが、漢方医学は基本的に所謂「オーダーメイド」治療ですよね? 小川先生 そうです。ただ、リンパ管奇形の場合は、嚢胞状、海綿状、混合型と大まかに分けられていて、基本的にいずれのタイプも大小の差はあれ嚢胞があります。よって、脈管奇形の中でもリンパ管奇形はたまたま一つの処方(漢方では証という)が合致していて越婢加朮湯が効果的なのです。他の脈管奇形の場合は一義的にはいかないので難しいところです。 仰木 初めて越婢加朮湯を処方されたリンパ管腫患者さんについて教えてください。 小川先生 英語論文でも症例を報告した患者さんですが、縦隔にリンパ管奇形があり、腋下から硬化療法を行うも効果は認められず、他に治療がないということで主治医の小児外科医からの紹介を受けて2011年に診察しました。 仰木 他の患者さんについてはいかがでしょうか。すでに他の治療を受けていた患者さんもいらっしゃいましたか? 小川先生 硬化療法や外科切除をした患者さんもいましたし、胎児診断で頸部にリンパ管奇形があると言われ、早速処方を始めたケースもありました。 新生児で頸部と気管の周辺に病変があって、主治医から気管切開をすすめられた親御さんを紹介され、越婢加朮湯を処方しました。飲むのをやめると大きくなったりと、いったり来たりのこともありましたが、3歳くらいまで治療を続けました(英語論文記載)。3歳以降は「ちょっと腫れたな」と親御さんが思われた時に飲ませる程度です。


仰木

英語論文に掲載されていた8名の患者さんのそれぞれのリンパ管腫のタイプは? 小川先生

殆どが混合型か嚢胞状型でした。 仰木

ピシバニール治療の場合、タイプによって効果に差がありますが、越婢加朮湯の場合はどうでしょうか? 小川先生 線維化した部分には効果はありませんが、海綿状型の場合でも嚢胞はあるのでそれなりに効きます。しかし、薬を増量しなければならない場合が多いです。 仰木

海綿状型の場合、ピシバニール治療だと嚢胞の数が多すぎて嚢胞も小さいため、たとえ投与を繰り返しても患部全体の縮小率は期待できませんが、越婢加朮湯だと全ての嚢胞に行き渡るので全体の縮小率が上がる、ということはありますか? 小川先生

あります。しかし、先ほども述べたように線維化した部分にはあまり効きません。そのため線維化した場合は別の漢方薬を使うことになります。

仰木

ある期間は毎日服用して、症状が改善されれば少しずつ減薬して治療終了、という流れでしょうか? 小川先生

硬化療法と同じで、嚢胞が閉じてしまえばもう大丈夫なのですが、袋(嚢胞)が残っている限りは服用をやめると大きくなります。それは個人差があります。 仰木

リンパ管腫症は漢方治療の対象ではありませんか? 小川先生

リンパ管腫症も、例えば痛みが取れたり、リンパ漏がある方が結構いらっしゃるのでそういった症状が改善したりといった場合がありますが、病変の範囲が広い方が多いので、漢方薬の服用可能量との兼ね合いから限界があるとは感じています。そういった方はシロリムスと併用するのも良いと思います。リンパ管腫症といっても、生活に支障がない方から、下肢を切断しなければならない方など症状は様々で、程度によって選択される治療も違うのではないでしょうか。 仰木

リンパ管腫症の場合、患部が広範囲に拡がっているため、その分服用量も増やさなければならないということですか? 小川先生 そうです。服用量を増やさなければならないですし、さらに、先ほど述べたように症状も様々でその人に合わせて調整しなければならないので、越婢加朮湯のみの処方でいける患者さんは少ないというか、殆どいらっしゃらないと言えます。 仰木 リンパ管腫症は今回の臨床試験の対象にはなっていませんか? 小川先生 主病変が例えば頸部など「ここ」と明らかにわかる方以外の患者は対象にしていません。散在性の場合、効いているかどうかの評価が難しいからです。 仰木 つまり、今回の評価基準は「病変の大きさの増減」ということでしょうか? 小川先生

他の基準も色々と検討しましたが、これまでの治療経験で病変の縮小がかなり認められたので、今回の臨床試験の評価基準は「大きさ」に限定しました。 仰木 臨床試験についてもう少し詳しく伺いたいと思います。実施を決められたきっかけは? 小川先生 正直なところ、漢方治療は本来個別医療で患者さんの症状に応じて薬を処方するので、臨床試験は漢方治療に沿わないのですが、二つの問題を解決するために臨床試験実施に踏み切りました。 一つ目の問題は、漢方医、特に、小児疾患や難治性疾患を診る漢方医が極めて少ないため、患者さんが漢方治療に容易にアクセスできないという問題です。臨床試験で効果が証明されれば、あらゆる診療科の先生が「これくらいなら(漢方を)使える」と考えるようになるかもしれません。そこで試してみて効果がないということになれば、専門の漢方医を紹介してもらう、という流れになればよいと思っています。

二つ目の問題は、海外で越婢加朮湯は入手できず、海外の子ども達は治療にアクセスできません。将来的に海外でも越婢加朮湯の使用が認められようになるには、まず日本で効果と安全性の科学的なエビデンスを出す必要があります。 これまで副作用の報告は殆どありませんので、今回の臨床試験を通して「シロリムスの前に越婢加朮湯」という選択を提案したいです。 仰木

ちなみに、これまで問い合わせのあった国はどちらでしょうか? 小川先生

アメリカ、オーストリア、リトアニア、ドイツなど。おそらく植物療法への関心が影響しているように思います。

仰木 患者側にとって臨床試験に参加するメリットはありますか? 小川先生 MRIを撮影し、放射線診断専門医からの評価を受けることができるところだと思います。前後で撮影して、半年後に効果の有無を確かめられるところがポイントで、半年経過後に効果が認められればその後も効果が期待できるので、保険で継続して服用してもらうことができます。


仰木

越婢加朮湯の薬代は一月どのくらいですか? 小川先生

薬代のみならば、保険適応で月3000円くらいでしょうか。 越婢加朮湯は一日の薬価が80円なのに対し、シロリムスは5000円くらいです。最も効果の期待できる薬の選択が最優先ですが、越婢加朮湯の選択は医療費削減につながり医療行政にも寄与します。 仰木 越婢加朮湯がすでに保険適応されている薬だとは知りませんでした。今回の臨床試験は「治験」ではないということでしょうか? 小川先生

「治験」ではなく「特定臨床試験」です。全く新しい薬を開発する場合は「治験」が必要ですが、治験には億単位の費用がかかるため、国が数年前に治験とは別に「特定臨床試験」制度を設けました。越婢加朮湯は小児の夜尿症の適応がすでに承認されている薬なので、いわば「リポジショニング(創薬)」といったところでしょうか。よって、越婢加朮湯は主治医が同意すればすでに使える薬ではありますが、実際リンパ管奇形に処方されている状況は、量が少なめだったり、すぐ服用を諦めたりする傾向があります。主治医が「こういうエビデンスがあるから飲みませんか?」と患者さんにエビデンスがあることを伝えるのと、「こんな薬もあるから飲んでみる?」と単に伝えるのとでは、患者さんの受け止め方が全く違い、治療結果にも影響します。 仰木

著効例の具体的な情報があればあるほど、関心を持たれる方が増えると思います。当会は治療例や治療に関するわかりやすい情報発信に協力していきたいと考えています。 小川先生 そうですね。例えば、「PEPARS No.145別冊 患児・家族に寄り添う血管腫・脈管奇形の医療2019年1月10日発行(株式会社全日本病院出版会)への寄稿文は参考になるかと思います(事務局へ寄贈して頂きました)。 仰木 最後に、患者さんやご家族へメッセージをお願いします。 小川先生 単に病変の縮小を目指すのではなく、どの程度どんなことにお困りなのか、例えば四肢に病変のあるかたは痛みが主体であるなど、患者さん一人一人に対応するのが漢方治療なので、患者さんの声をぜひ聞かせてください。

仰木

本日はお時間を頂き、ありがとうございました。


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